研究概要 |
本研究では,分子動力学(MD)法解析により,触媒金属微粒子内の結晶方位及び局所融解状態の分布がカーボンナノチューブカイラリティ決定にどのように影響を与えているかを解明し,カーボンナノチューブカイラリティ制御触媒金属微粒子の最適構造設計を行うことを目的としている.平成21年度は,触媒金属を担持している基板が金属微粒子の相変化に与える影響を検討するため,様々な相互作用を持つ基板に担持された1.0-10.0nmの鉄・モリブデン微粒子の融解・凝固過程を系統的に計算した.融点・凝固点とも触媒半径の逆数に比例して降下することを確認し,さらに,バルク系と同様に基板の相互作用の強さと過冷度の間に強い相関性があることを見出した.これらの結果を雑誌「PCCP」,「Chemical Physics Letters」等,3編発表するとともに,「米国物理学会3月大会」等,3件の学会発表を行い,得られた知見の公表に努めた. さらに,触媒金属内に溶解した炭素原子が析出する過程を詳細に検討するため,金属-金属問及び金属-炭素問結合強さの温度・炭素濃度依存性を系統的に計算し,従来のナノチューブ生成過程のMD計算では,グラファイト構造形成するための十分な緩和時間が得られないことが分かった.よって,新たにMD法とforce biased Monte Carlo(FBMC)法を組み合わせたハイブリッドアルゴリズムを開発し,このハイブリッドアルゴリズムを用いた計算により,孤立炭素と触媒金属微粒子からカーボンナノチューブキャップが生成される過程を計算した.この結果を雑誌「Chemical Physics Letters」で発表した.平成21年度に得られた結果を基に,様々な表面構造をもつ金属微粒子からナノチューブキャップ生成過程の計算を行うことで,優位なカイラリティを導くことが来年度の目標である. また上記計算結果について,海外協力研究者のケンブリッジ大学材料科学科講師Dr.James Elliottと集中的に議論を行うため,H21年9月にケンブリッジ大学を訪問した.
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