研究概要 |
各種センサーパッケージの小型化に際し,一定の大きさと形状を持つセンサー類や集積回路自体を効率的に配置・結線するために,樹脂製のハウジングなどに電気回路を形成するMID (Molded Interconnect Device)技術が存在する.しかし一般的なMIDでは,樹脂成形プロセスが複雑化することに加え,エッチングというウェットプロセスが含まれる.一方,高分子系複合材料の強化材として使用される炭素繊維は六員環が連結したグラファイト構造を持ち,単一層内ではπ電子が自由に移動できる.このため電気伝導率は,1500℃程度で熱処理した炭素繊維で5.0×10^2S/cm, 2000~3000℃で熱処理した単結晶グラファイトで2.5×10^4S/cmとなる.そこで本研究では,高強度の赤外線レーザーを高分子材料表面に照射することで直接炭化し,局所的に電気伝導性を有する領域を形成する手法の開発を行う.平成21年度は,分子構造中に占める炭素の割合が高い熱可塑性樹脂のポリアクリロニトリル(以下PAN)を供試材料に選択した.グラファイト構造を得るには,PANに耐炎化(空気雰囲気)と炭化(真空中または不活性ガス中)の二段階の熱処理を行うが,熱処理条件の比較検討のため,炭酸ガスレーザー(最大出力30W)の照射による加熱に加え,赤外線加熱炉による熱処理も行った.炭化処理状況の評価は,四探針法(探針距離間隔1.5mm)により電気伝導率を測定することで行った.PAN製の円柱状試料表面に対し,耐炎化処理条件:レーザー強度8.6W/cm^2,照射時間5min,ならびに炭化処理条件:レーザー強度34W/cm^2,照射時間10sを適用したところ,11.4S/cmの電気伝導率を付与できた.引き続き,もう一桁大きな電気伝導率を得るべく検討を進めるが,特に次年度は炭化プロセスのシミュレーションに資するモデル構築を中心に研究を行う予定である.
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