研究概要 |
本研究の目的は,ヒトの皮膚感覚が「つるつる・ざらざら」などの対象物の性質を捉えるためだけでなく,「押しつけ感・抵抗感・引きずり感」などの自身の運動や力(深部感覚)の知覚にも役立っていることを,触覚ディスプレイ技術を用いて実証し,そのメカニズムを解明することである.また,そのような運動知覚を引き起こす皮膚刺激の条件を明確化し,疑似運動感覚の呈示という触覚ディスプレイの新しい利用法を確立する. 本年度は,触運動のタイミングに対応して触刺激を与えることにより疑似運動感覚を生成する手法について,複数検討を行った.まず,触運動に対して触フィードバックを特定の条件で遅延させることで,触運動を行う腕に抵抗感などの機械インピーダンスの変化が生じることを心理物理実験により検証した。その結果,触速度の加速時・減速時に触フィードバックの遅延を設けることで,機械インピーダンスの変化が生じることが確認された.また,別の手法として,触運動の速度,加速度に比例して,振動刺激の振幅を変化させることで,粘性抵抗や慣性を呈示できることを発見した.一軸アームと力センサを用いて力覚呈示装置を開発し,その力覚に重畳する形で提案する皮膚刺激を実装した.その結果,皮膚刺激を加えることにより,力覚呈示で呈示した粘性,慣性の感覚をより拡大したり,減少させることができることが心理物理実験により実証された. また,触運動時の皮膚変形と神経活動を詳細にモデリングするために,触察運動の観察装置の開発を行った.この観察装置により,皮膚と触対象との速度を制御すると同時に,押しつけ力や接線力,および接触面の変形挙動を観察することが可能になる.
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