研究概要 |
過酷な応力状態で塑性回転を被る柱脚の破壊は,多くの場合,建物の限界状態を支配する。その一方で,建物基部の剛性や強度は,建物全体の地震応答に影響を及ぼし,建物を構成する他の部材群の損傷度に強く寄与する。現存鋼構造柱脚の諸問題や新たな可能性に鑑みれば,「柱脚をコンクリート基礎に固定せず基礎に置くだけ,という条件を利用した損傷抑制機構を実現できれば」という着想が生まれる。本研究では,(1)最大静止摩擦係数に相当するせん断力以下の外力において柱脚はすべりを生じない,(2)それをうわまわる外力に対して柱脚がすべりだし,(3)柱脚はもとより他の部材群の損傷を抑制する,という損傷抑制型建物の開発と耐震性評価を目的とする。 大地震時に,柱脚にすべりが生じて上部構造の損傷が低減しても,基礎のすべりが過大になると,配管類等が著しく損傷するなど,機能が損なわれて建物を継続使用することが困難になる。従って,すべりの評価とコントロールが必要である。本年度は,まず,対象とする鋼とモルタル間における摩擦抵抗力とすべり速度の関係を振動台実験により検証した。試験体の上部構造は,積層ゴムと鋼製フレームを重ね合わせて,1次固有周期が0.5秒となる弾性システムとし,その下に鋼製柱脚と基礎モルタルの接触面を組み込んだ。基礎的なデータを取得するための正弦波入力と,2建物の地震応答を想定した地震動入力を実施した。その結果,すべり速度の上昇とともに摩擦抵抗力が低下すること,その現象にすべり振幅が強く影響されることわかった。その関係を解析用モデルとして定式化し,これを組み込んだ応答解析によって,実験で得られた現象を再現した。解析を建物に近いモデルに展開し,基礎が完全に固定の時に上部構造が重度に損傷する状況がすべりの発生で回避できることとあわせて,すべり速度の観点から現象を大局的に整理した。今後は,付加的なストッパーを設計し,上部構造の損傷を低減しつつすべりを抑制する方策を検討する。
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