まずPLD法で製膜したCu_2O薄膜ならびにCu_2O/Al_2O_x積層膜を試料に用いたex-situ光電子分光観察の結果を詳細に検討したところ、当初予定したAlKα線を利用した単色X線源の新規導入とこれを用いたex-situ測定による評価よりも、スパッタ装置を既存の正逆光電子分光装置に新規併設しin-situ測定による評価を行う方がより適切な評価を行えるとの結論に至り、今年度の予算で新規にスパッタ装置を導入しこれを既存の光電子分光装置に接続した。スパッタ装置はCu_2OとAl_2O_xをターゲットの交換無しで製膜できるようにするために2源のRFマグネトロンスパッタ源を採用した。製膜室のベースプレッシャーは<2×10^<-6>Paに達し、これが光電子分光装置の測定槽に直接接続されているため製膜後直ちに電子状態の観察ができるようになった。これによりex-situ測定で最も問題となっていた試料の大気暴露の影響を完全に排除できるようになった。現在は装置の調整と試運転の段階にあり、平成22年度初期から本格的な実験に取り組める状態となった。一方、PLD法により製膜した試料を用いたex-situ測定により、Cu_2O/Al_2O_x界面におけるCuの価数がAl_2O_xの製膜により酸化されることが明らかとなりつつある。Cu_2O膜全体としてはCuが一価であり良好な特性を示すが、デバイスとして機能する界面ではCuが二価であるため特性が著しく悪化していると考えることができる。Cuの価数変化はAl_2O_x製膜の極めて初期段階から生じており、今までのところ製膜条件の最適化によるCu2価の生成を抑制することはできていない。しかしながらデバイス動作を阻害している要因をほぼ突き止めることができたことなどから、この成果を応用物理学会にて発表した。
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