本研究では、ナノスケールでの破壊挙動の新規評価方法として、走査型プローブ顕微鏡によるセラミックスのき裂進展素過程のその場観察技術の確立を目的とした。試験片の片面を鏡面研磨すると共に、片側シェブロンノッチを導入した。このノッチ入り試験片を小型試験装置で負荷することにより、き裂を安定的に進展させ、走査型プローブ顕微鏡を用いて観察した。Si_3N_4セラミックスが安定破壊し、き裂が徐々に進展していく様子が確認された。またSi_3N_4セラミックスは、1つのき裂が連続的に進展するのではなく、先端あるいはき裂近傍にマイクロクラックを生成しながら、それらが連結して不連続に進展していくことが観察された。鏡面研磨面に対して、わずかにプラズマエッチングを施して、粒界相を数nm突出させた試験片に対しても、同様にき裂進展のその場観察を行った。その結果、焼結助剤としてY_2_O_3とAl_2O_3を用いたSi_3N_4セラミックスでは、き裂は粒界相中ではなく、Si_3N_4粒子と粒界相の界面を進展することも明らかになった。これに対して、Lu2O3とAl2O3を焼結助剤として作製したSi3N4セラミックスでは、き裂が粒内に進展する様子も見受けられた。R曲線の測定結果から、これらのき裂進展挙動の差異は、添加した希土類酸化物に由来した粒界の強度あるいは破壊靱性の違いに起因していると考察した。また、磁歪材料であるTerfenol-Dを用いて、磁気力顕微鏡モードにてき裂進展挙動のその場観察を行った。研磨面は等方的な磁区構造を有しているのに対して、破面では不均一で1つの方向に偏った磁区構造を有していた。にき裂進展に伴う磁気力顕微鏡観察の結果、き裂の進展に伴いき裂近傍の磁区構造が変化していく様子が確認された。これは破壊時に作用したき裂先端の局所応力による逆磁歪効果によるものと考えられる。
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