研究課題/領域番号 |
21687002
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
松浦 健二 岡山大学, 大学院・環境学研究科, 准教授 (40379821)
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キーワード | シロアリ / 菌核菌 / 卵保護 / 擬態 / 進化 / ターマイトボール / ヤマトシロアリ / フェロモン |
研究概要 |
真社会性昆虫の特徴の1つとして、繁殖と労働の分業があげられる。それゆえ、1つの集団内で形態、行動様式の異なる個体が分業、協力し合うことで、社会が維持されている。その中で、女王は「女王フェロモン」を分泌することで、他の雌個体が繁殖することを抑え、女王としての施位を確固たるものとしている。これまで、アリやハチで女王フェロモンが同定されていたが、シロアリについては同定されていなかった。昨年度までの研究により、世界で初めてシロアリの女王フェロモンの同定に成功した(Matsuura et al.2010 PNAS)。この際、材料として用いたのが、下等シロアリに属するヤマトシロアリである。では、他のシロアリではどのような女王フェロモンを分泌しているのだろうか?そこで本研究では、高等シロアリに属するタカサゴシロアリを用いて、化学分析による女王フェロモンの特定に取り組んだ。その結果、世界で初めて高等シロアリにおける女王フェロモンの特定に成功した。女王特異的に、ある1種類の揮発性物質が複数のコロニーで共通して検出された。また、この揮発性物質はヤマトシロアリで発見された女王フェロモンとは異なる物質であることが明らかとなった。 ヤマトシロアリの卵揮発成分は、コロニー内の産卵量を示す直接的なシグナルとなり得る。そこで、この揮発成分が複数女王間の産卵を巡って、コロニーレベルの産卵量調節に機能している可能性について検証した。その結果、同数のワーカー存在下において、単独女王より複数女王区において産卵数が抑制されており、また、卵揮発成分であり、女王フェロモンでもある2成分、2メチル1ブタノールとブチルブチレートの投与区において、同様の女王の産卵抑制が再現された。この結果から、卵揮発成分はシロアリの女王間の産卵を巡る情報交換においても機能していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ヤマトシロアリと卵擬態菌核菌の相互作用の解明を目的とした本研究において、さらに発展したシロアリの卵揮発成分の特定や、女王フェロモンの特定に成功するなど、計画以上の成果を得ている。また、高等シロアリの卵擬態菌核菌の発見や、女王特異的揮発物質の特定に成功するなど、重要な発見があった。
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今後の研究の推進方策 |
昨年までの研究から、シロアリの卵から放出される揮発物質が、卵保護におけるワーカーの行動を活性化させていることを見出した。今後は、卵揮発成分であり、女王フェロモンでもある2成分、2メチル1ブタノールとブチルブチレートの進化的起源について、卵塊中の卵擬態菌核菌の発芽抑制効果の側面から検証する。さらに、卵揮発物質の多面的機能について、産卵をめぐる女王間相互作用や、卵保護物質であるリゾチームの生産との関係から分析を行う。
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