研究概要 |
真社会性昆虫の女王は「女王フェロモン」を分泌することで、他の雌個体が繁殖することを抑え、女王としての地位を確固たるものとしている。これまで、アリやハチで女王フェロモンが同定されていたが、シロアリについては同定されていなかった。これまでの研究により、シロアリの女王フェロモンの同定に成功した(Matsuura et al. 2010 PNAS)。この際、材料として用いたのが、下等シロアリに属するヤマトシロアリである。女王フェロモンの成分、2メチル1ブタノールとブチルブチレートの近縁種の女王分化に対する抑制効果を明らかにするため、R. amamianus, R. miyatakei, R. yaeyamanus, R. okinawanus, R. flavipes およびR. virginicusの同属6種について種間交差活性を測定した。その結果、R. amamianus, R. miyatakeiについては有意に女王分化を抑制することが分かった。しかし、R. yaeyamanus, R. okinawanus, R. flavipes およびR. virginicusでは抑制しなかった。R. flavipes とR. virginicusでは系統的に離れていることで、別の物質を女王フェロモンとしていることが考えられる。女王フェロモン物質は卵からも放出されており、これらは卵の糸状菌に対する抗菌機能を有していることも明らかになった。有意な交差活性を示したR. amamianus, R. miyatakeiは、両種とも卵擬態菌核菌ターマイトボールを保有しており、また、女王フェロモン物質はターマイトボールの発芽抑制効果があることが明らかになっており、女王フェロモンは糸状菌への防衛機能として進化した物質が、二次的に女王の存在と繁殖能力を示すシグナルとして進化した可能性が示唆された。
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