低エネルギーSAD法は、硫黄等の軽原子からの微弱な異常散乱シグナルを元に蛋白質のX線回折データの位相を決定し、構造解析を行う手法であるが、汎用化や解析困難な蛋白質結晶への応用のためにはまだまだ開発・検討すべき事項が残されている。低エネルギーSAD法の中で、如何に微弱な異常散乱シグナルを正確に測定することが重要であり、そのためには、出来るだけ低いエネルギーのX線を用いて異常散乱シグナルを増大させる一方で、低エネルギー領域で増大するX線の吸収効果によるノイズの混入を防ぐ必要がある。本年度では、その要素技術開発として、まず低エネルギーX線の吸収効果を低減するために測定試料周辺のヘリウム置換システムの開発を行った。蛋白質結晶にX線を照射する際に用いる低温ガス吹き付け装置に、窒素ガス及びヘリウムガスが利用可能なものを導入し、これに用いるガスを外部から自由自在に選択することできるシステムを作成し追加した。さらにPFにあるビームラインBL-17A及びNW12Aにおいて、サンプル周辺からX線検出器までをヘリウム雰囲気に置換可能なヘリウムチャンバーの設計をいった。次に試料が持つ異常散乱シグナルをリアルタイムでモニタリングし、データ測定戦略に生かせるように、異常散乱シグナルであるフリーデル対の回折点を出来るだけ同じ時間に測定する測定手法を用いてデータを取得し、異常散乱シグナルのリアルタイムモニタリングが可能であるかどうかの検討を行った。
|