研究概要 |
低エネルギーSAD法は、硫黄等の軽原子からの微弱な異常散乱シグナルを元に蛋白質のX線回折データの位相を決定し、構造解析を行う手法であるが、汎用化や解析困難な蛋白質結晶への応用のためにはまだまだ開発・検討すべき事項が残されている。低エネルギーSAD法の中で、如何に微弱な異常散乱シグナルを正確に測定することが重要であり、そのためには、出来るだけ低いエネルギーのX線を用いて異常散乱シグナルを増大させる一方で、低エネルギー領域で増大するX線の吸収効果によるノイズの混入を防ぐ必要がある。本年度では、これまで開発してきた低温ヘリウム吹き付け装置、およびヘリウムチャンバーをより汎用的に使用出来るよう改良を重ね、その有効性を確認した。特にヘリウム吹き付け装置には真空ポンプを設置し、常時真空引きを行うことで、吹き付け温度の安定性を向上させることが出来た。ただし、ヘリウムチャンバーに関して、当初予定した伸縮機構を導入する際に、光学系の相対位置がずれるという問題に直面し、導入を見送った。その他にも、取得した回折データを自動的に処理するクラスタシステムにおいて、多数のユーザーの同時使用にも耐えられるように、ハードウェアの増設や、ソフトウェアの効率性の見直し等で汎用化を進めた。これらの結果、核酸の結晶や、膜タンパク質の結晶など,標準的な試料ではなく、実際に構造解析研究を実施している試料に関して、本装置を用いてデータ収集を行い、その汎用性を確かめることが出来た。
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