現在、細胞機能の制御方法として、トランスジェニックやノックアウトをはじめとした遺伝子工学技術や薬剤添加による方法などが行われている。遺伝子や薬剤を利用した従来の方法に頼らず、再生医療に有望な幹細胞などが有する機能を非侵襲的に制御することは疾病の治療・予防にとどまらず、基礎生物医学実験などにも有用なツールとなる。そこで、安全に細胞機能を制御する方法として光技術を応用することが本研究の目的である。本研究では、骨髄間葉系幹細胞へ光照射後に発現タンパク質の網羅的解析を行い、種々の転写因子やサイトカイン分泌量の増減を確認した。TNFα、MIP1α、ICAM1およびIL-8といった炎症性サイトカインの分泌がレーザー照射により発現促進または抑制されているかどうか検証を行った。光照射後のこれらタンパク質発現量の変化を測定していたところ、細胞内で光照射後のみ特異的にリン酸化されているタンパク質が存在することを発見した。そのタンパク質は種々のサイトカイン発現や炎症のキーファクターであるNF kappa Bであることを突き止めた。光照射によるこのキータンパク質のリン酸化機構も明らかにし、これまで測定している各種サイトカイン量の発現変化のメカニズムを解明しつつある。「光照射による細胞内特異的タンパク質のリン酸化」という知見を引き続き研究することで、光がおよぼす細胞機能を解明できる可能性が示唆された。
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