現在、細胞機能の制御方法として、トランスジェニックやノックアウトをはじめとした遺伝子工学技術や薬剤添加による方法などが行われている。遺伝子や薬剤を利用した従来の方法に頼らず、細胞が有する機能を非侵襲的に制御することは疾病の治療・予防にとどまらず、基礎生物医学実験などにも有用なツールとなる。そこで、安全に細胞機能を制御する方法として光技術を応用することが本研究の目的である。昨年度までの研究成果から、レーザー・光照射により細胞内においてNF-kappaBのリン酸化が亢進することがわかっている。本年度における研究では、昨年度に得られた成果を基礎として、細胞へ光照射後にリン酸化されるタンパク質の網羅的解析を行い、さらにそれらリン酸化タンパク質の下流に存在する種々の転写因子発現量やサイトカイン分泌量の増減を確認した。NF-kappaBだけでなく、JNK、p38MAPK、IKKalphaやIKKbetaのリン酸化を中心として研究を進めた。その結果、波長405nmのレーザーを各種細胞に照射したところ、p38MAPKのリン酸化が亢進されていることが明らかとなった。この結果は波長405nmレーザーに対する細胞応答として世界で初めての発見である。本研究では、光生物学では世界で有名な米国のMassachusetts General Hospital(MGH)と綿密な連携を取りながら研究を進め、光生物学について最先端の研究を行っている研究者と討論を行いながら、本研究を進めた。現在、これまでに得られた結果の一部をまとめて論文投稿中であり、研究開始当初に立案した研究計画よりも速いスピードで効率的な研究を行った。
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