我々はHistone H3の9番目のLysine (H3K9)の脱メチル化酵素であるJmjdlaのKnockout (KO)マウスが肥満をきたすことを発見した。そこで、このマウスにおける血漿プロファイリングを行った。その結果、Jmjdla KOマウスは野生型マウスに比較して、血中の中性脂肪値、コレステロール値、グルコース値、インスリン値が有意に高値であった。さらに、グルコース負荷試験、インスリン負荷試験の結果、Jmjdla KOマウスではインスリン感受性が低下していた。これらの結果から、Jmjdla KOマウスがメタボリックシンドロームの状態にあり、初期糖尿病マウスモデルであることを見出した。実際、このマウスの白色脂肪量は野生型より多く、さらに16週齢までの若年マウスを用いて病理学的解析を行った結果、脂肪細胞のサイズが大型化していることが明らかになった。一方、肝臓、骨格筋、褐色脂肪においては、特別な病理学的変化を認めなかった。次に、肥満のメカニズムを解明するため、生理学的検索を行ったところ、摂食量や酸素消費量においては野生型とJmjdla KOマウスの違いを認めなかったが、Jmjdla KOマウスは野生型に比べて呼吸商が高値であった。このことは、Jmjdla KOマウスのエネルギー源が脂肪から糖にシフトしていることを示しており、脂肪が特異的に蓄積している表現形を鑑みて、合理的であった。さらに、Jmjdlaの標的遺伝子を検索するために、肝臓、骨格筋、白色脂肪、褐色脂肪においてマイクロアレイを行った。マイクロアレイの結果をもとに、Adamts9、ApoC1、Glut4の発現が、Jmjdla KOマウスの白色脂肪とsiRNAを用いてJmjdlaをKnock downした3T3L1脂肪細胞の両方で、低下していることを見出した。さらに、ChIP PCR法でJmjdlaとH3K9デメチル化が、これらの遺伝子のプロモーター部位に多く結合していることを確認した。これらの遺伝子は、糖尿病や脂肪蓄積を関連する遺伝子であり、JmjdlaKOマウスが肥満を示す原因となっていると考えられる。以上の結果は、ヒストンのメチル化変化と代謝の関係を示す最初期の発見のひとつであり、その成果はGene to Cells誌に掲載された。
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