研究概要 |
ヒストンH3の9番目のリジン(H3K9)の脱メチル化酵素であるJMJD1Aの標的遺伝子とその発現制御機構を明らかにするため、自家製抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)シークエンスとプロテオミクス解析を行った。抗体は50アミノ酸の部分長を抗原として作製したものに加え、全長抗原を用いて新たに作製した。昆虫細胞系に発現させた全長Jmjd1aタンパク質を精製した上でマウスに免疫した結果、内在性タンパク質を認識し、かつホルムアルデヒド固定細胞からの免疫沈降が可能である抗体が複数作製できた。得られたJmjd1a抗体をはじめ、ヒストンH3K9me1, -me2, -me3, H3K4me3抗体を用いたChIPシークエンスを行い、データを統合して解析した。その結果Jmjd1aノックアウト(KO)マウス由来の繊維芽細胞特異的に濃縮が認められる6番染色体上の領域を確認し(Region 1と命名)、さらにRACE法を用いてこの領域の転写産物全長を取得した。Region 1の転写産物はJmjd1a KOマウスの白色脂肪組織および褐色脂肪組織にも高発現していることが示された。同領域は非コーディングでありレトロトランスポゾン領域と重なっていたため、他領域に広げて検討したところJmjd1aがレトロトランスポゾンの発現制御に与ることが示された。つづいてJMJD1Aの作用複合体を検討するため、それぞれが異なる認識部位を持つ複数のクローン化JMJD1A抗体を用いて免疫沈降を行ったのち、質量分析を用いたショットガンプロテオミクスを行った。その結果、それぞれN端部認識抗体、C端部分認識抗体によって共沈するタンパク質は、ASAP複合体やsnRNPといったタンパク質群とSIN3AやE3リガーゼといったタンパク質群であった。この結果は、JMJD1AがRNAプロセシングや新たな転写調節機構に関わる可能性を示した。
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