細胞膜を構成する脂質分子は、数千種類存在していることが知られているが、何故そのような多様な脂質分子を細胞がどのように利用しているかは不明な点が多い。本研究提案では、タンパク質や核酸に比べて解析が遅れている脂質分子に着目し、上皮細胞と間葉細胞、上皮細胞のアピカル膜とバソラテラル膜など、細胞の種類や、細胞膜の各領域においてどのように脂質分子の組成が異なるかを比較することにより、細胞種や細胞膜ドメインに特徴的な脂質分子組成を明らかにし、脂質分子の機能を明らかにすることを目的としている。 本年度は、コロイド状にシリカ粒子を用いることにより、細胞膜を界面活性剤を用いることなく物理的に単離し、脂質を抽出する技術をまず確立した。その概略は、陽イオンを付与したナノスケールのシリカ粒子を細胞外から添加して、細胞膜のみを選択的に付着させて、密度を高くする。細胞を破砕したのち、密度勾配遠心により、重み付けした細胞膜のみを取得する方法である。このようにして単離した細胞膜からBligh & Dyer法により脂質を抽出し、液体クロマトグラフィにより極性基ごとに分離し、それぞれの極性基を持つ脂質分子を質量分析により網羅的に同定するという手法である。 この手法により、上皮細胞に選択的に含まれるスフィンゴミエリン分子種を同定することに成功した。現在、この脂質分子種の上皮細胞と間葉細胞の違いを生み出している代謝酵素の同定を試みている。具体的には、培養上皮細胞EpH4細胞に転写因子Snailを発現させて間葉細胞に転換した細胞と、もとのEpH4細胞の遺伝子プロファイルを比較し、スフィンゴミエリン代謝に関わる酵素をビックアップしている。代謝酵素をノックダウンすることにより、上皮細胞特異的なスフインゴミエリン分子檀の機能を明らかにしたい。
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