細胞膜を構成する脂質分子は、数千種類存在していることが知られているが、脂質の多様性の意義はほとんど明らかになっていない。本研究提案では、タンパク質や核酸に比べて解析が遅れている脂質分子に着目し、上皮細胞と間葉細胞、上皮細胞のアピカル膜とバソラテラル膜など、細胞の種類や、細胞膜の各領域においてどのように脂質分子の組成が異なるかを比較することにより、細胞種や細胞膜ドメインに特徴的な脂質分子組成を明らかにし、細胞膜局所における脂質分子の機能を明らかにすることを目的としている。 本年度は、昨年度までに樹立したコロイド状にシリカ粒子を用いた細胞膜単離技術および質量分析による脂質解析の手法により、上皮細胞と間葉細胞の脂質組成の違い、あるいは、レチノイン酸の添加により上皮細胞へ分化誘導可能な培養細胞株F9細胞を用いて上皮細胞分化に伴う脂質組成の変化を解析した。 解析の結果、上皮細胞に特異的に含まれるSphingomyelinの分子種が存在すること、およびPhosphatidylethanolamineに含まれる不飽和脂肪酸に特徴が認められることが明らかになった。これらの上皮細胞特異的な脂質分子種を生み出す代謝酵素について、現在、遺伝子発現のプロファイルやESTデータベースを用いて、解析対象を絞り込みを進めている。また、これらの脂質が上皮細胞の機能にどのようにかかわっているかを明らかにする目的で、代謝酵素に対する抗体作成や遺伝子のノックダウン実験を行っている。
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