受精は生命現象の始まりという極めて重要な現象にもかかわらず、分子生物学的な機構については未知の部分が多い。特に膜融合機構に関する研究は世界的に見ても詳細な解明に至っていない。これまでに我々は、世界で始めて精子側の融合因子IZUMO1を発見した。最近、融合を阻害するIZUMO1のモノクローナル抗体とBiacoreを用いた解析により、IZUMO1の融合を制御するコア領域(IZUMO1_<PFF>:putative fusion fuagment)の同定に成功した。また、円二色性、超遠心、X線溶液散乱等を用いた物性解析から、この領域は、αヘリックス含量が多い構造であることが明らかになった。 今年度は、IZUMO1_<PFF>の構造をより詳細に解析するために、この領域の結晶構造解析を試みた。その結果、最大1mmもの結晶が得られ、構造解析には至っていないものの、その条件は整いつつある。 また精子-卵子の膜融合不全のIZUMO1やCD9ノックアウトマウスを利用して、囲卵腔内にいる融合前の精子をマイクロマニピュレーションの技術を利用して取り出し、新しく準備した卵子と体外受精を行った結果、受精が成立し、その胚を移植すると、妊孕性のあるマウスが正常に発生した。これは、一度受精の準備を終えた精子が受精できないというこれまでの概念を見直すべき結果となった。 今後の解析では、IZUMO1の構造に関するデータをもとに、卵子側の融合因子であるCD9や精子上のIZUMO1以外の融合因子との関わりを明らかにすることにより、より包括的に受精の膜融合の分子メカニズムを明らかにしていきたい。
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