研究概要 |
多細胞生物の器官発生とその恒常性維持は、細胞増殖と細胞死の協調によって動的に制御されている("動的恒常性維持")。近年、このような組織レベルの動的恒常性維持に、「細胞競合」と呼ばれる機構が重要な役割を果たしていることが分かってきた。細胞競合とは、組織中で隣り合う2つの細胞間で適応度が相対的に低い細胞("敗者")が細胞死によって排除され、適応度の高い細胞("勝者")が敗者の犠牲の上に繁栄(生存・増殖)する現象である。したがって、細胞競合は適応度の低い細胞群を選択的に排除する、細胞の適者選択システムと考えられる。細胞競合は器官形成の調節のみならず、組織に生じた異常細胞の排除、がん細胞の優勢的増殖、さらにはニッチにおける優良幹細胞の選択など、器官の恒常性維持や種々の疾患メカニズムにおいても重要な役割を果たすことが示唆されている。本研究では、ショウジョウバエ上皮をモデル系として用い、細胞競合を介した上皮の動的恒常性維持システムの動作原理を明らかにすることを目的とする。昨年度までに、ショウジョウバエ上皮に誘導した極性崩壊細胞が細胞競合によって組織から排除されるモデル系を用い、周囲の正常細胞(細胞競合の"勝者"として振る舞う)がJNKシグナル依存的にPVR-ELMO/Mbc経路の活性化を介して貪食能を亢進し、極性崩壊細胞("敗者")の細胞死を促進することを明らかにした(Ohsawa et al., Dev Cell, 2012)。平成23年度は、本モデル系を用いて大規模な遺伝学的スクリーニングを行い、正常細胞が細胞競合を介して極性崩壊細胞を排除する際の上流メカニズムに関わる遺伝子群の探索を行った。その結果、隣接する極性崩壊細胞を排除できなくなる変異体(elimination defective変異体と命名)を複数単離することに成功した。現在、これらの変異体の責任遺伝子の同定を行っているところである。
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