ショウジョウバエの食性の進化に関わる匂い物質結合蛋白質、OBP57dとOBP57eの分子機能を明らかにするため、大腸菌を用いて合成した組み換えタンパクの結合特性について解析を行った。キイロショウジョウバエ由来OBP57dおよびOBP57eに加えて、遺伝子重複を経験しておらず祖先型遺伝子の機能を維持している可能性があるウスグロショウジョウバエ由来OBP57deについて、蛍光分光光度計を用いたin vitro結合解析により各種化合物に対する親和性を測定した。この測定法は内在性の蛍光を用いるため異なるOBP間で直接結果を比較することができない。そこでGC-MSを用いた直接的な結合解析もあわせて行い、蛍光による結合解析結果を校正する手法を考案した。これを用いて炭素数の異なる直鎖脂肪酸について結合親和性を測定したところ、3つのOBPのいずれも、炭素数13のトリデカン酸をもっともよく結合することが明らかになった。この結合特性が生物学的に意味を持つものであるかどうかを確認するため、トリデカン酸に対する行動レベルの反応を調べた。疎水性が高いトリデカン酸を用いた産卵場所選択行動実験を行うために、培地の組成を改良して新しいアッセイ系を開発した。その結果、野生型のキイロショウジョウバエはトリデカン酸を忌避することが確認できた。一方、OBP57dとOBP57eの遺伝子ノックアウト系統はトリデカン酸を忌避しなくなった。Gal4/UASシステムによりそれぞれのOBP遺伝子を復帰させると、トリデカン酸に対する忌避行動が復活した。これらの結果から、OBPの分子レベルでの結合特性と個体レベルでの行動特性が対応していることが示された。
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