研究課題/領域番号 |
21688004
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研究機関 | 独立行政法人農業生物資源研究所 |
研究代表者 |
黄川田 隆洋 独立行政法人農業生物資源研究所, 昆虫機能研究開発ユニット, 主任研究員 (60414900)
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キーワード | 乾燥耐性 / 生体分子修復 / 乾燥休眠 / トレハロース / 網羅的解析 / ESTデータベース / 昆虫 / 吸水過程 |
研究概要 |
ESTデータベースに基づき作成したカスタムマイクロアレイには、約8,000個の独立した遺伝子を検出可能な16,652個のプローブを4x44kフォーマットで載せている。このマイクロアレイとESTデータベースを組み合わせることで、13個の独立した異性化タンパク質修復酵素PIMT.(brotein L-isoaspartyl methyl transferase)遺伝子を見いだした。加えて、ゲノム解析とmRNA-seqから新たに2個のPIMT遺伝子も発見した。 PIMTは、老化に伴うタンパク質のアスパラギン残基やアスパラギン酸残基の異性化を防ぐことで、タンパク質の健常性を維持する機能を持った酵素である。PIMTは、微生物から植物・動物まで広く存在しているが、そのコピー数は半数体当たり1つないし2つしか存在しない。15個ものPIMTのパラログを有する生物は、知る限りネムリユスリカのみである。mRNA-seqの結果を踏まえると、1つのパラログを除いて、ほとんどのPIMT遺伝子は乾燥に伴って発現が上昇していた。メタボローム解析の結果、メチル基供与基質であるS-アデノシルメチオニンの濃度が乾燥に伴って減少している事から、PIMTが乾燥過程で活性を発揮している事が示唆された。これらの結果から、多コピーかつ乾燥誘導性のPIMT遺伝子の発現によって、乾燥によって生じる活性酸素濃度の上昇がもたらす深刻な異性化から、健常性を維持するようにタンパク質を修復することで、anhydrobiosisに至る乾燥過程でも生体内の様々な機能を保持し続けることを可能としていると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
技術の進歩に伴い、サンガー法のみでは同定しづらかった多コピーの遺伝子を、mRNA-seqにより網羅的に同定できた。機能解析に関しては、既存の方法を踏襲して行うことで、進捗が期待可能である。
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今後の研究の推進方策 |
乾燥に伴う酸化ストレスは、タンパク質に対して甚大な傷害をもたらす。本研究により、ネムリユスリカは、PIMTのような修復酵素を転写レベルで大量に発現するのみならず、ゲノム中のコピー数も増やすことで、酸化ストレスに対抗していることが示唆された。今後は、これらの遺伝子の機能を解析することで、PIMTパラログ間の生理学的役割分担と、極限乾燥耐性機構に対するタンパク修復系の寄与を考察していく予定である。
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