最近アメリカでは違法伐採対策のためにレーシー法を改正し、木材の産地表示を義務化した。EUでも同様の法律が検討中であり、木材の産地を義務化する動きが世界的に広まっている。違法伐採抑止のための産地判別技術には、産地判別誤差・誤判定の可能性が小さいことが必要不可欠である。食品の産地偽装対策技術として、安定同位体分析が用いられているが、1年生の農産物の産地判別と違い、樹木は数十年以上の間成長して年輪を形成するので、木材は農産物に比べてより多くの同位体情報を含んでいる。研究代表者は、年輪の同位体比時系列作成により多数の安定同位体比データを複数年にわたって比較することにより、北米産の木材の産地を誤差60-300kmで判別することに成功した。これは、輸入される原木の産地国を判別する技術としては十分な精度である。 年輪の酸素同位体比は最も個体差が小さいため、最も産地識別に有効だと思われる。高温熱分解型元素分析計(TC/EA、1450℃)による酸素同位体比測定が最も精度が高いが、本機器購入は本研究課題での予算を超過するため、本年度は低温熱分解法(1080℃)でのセルロースの酸素同位体比分析施設の立ち上げを行った。 産地判別を実用化するうえで重要なのは、同位体分析に必要な時間・コストを軽減することである。そこで、年輪の同位体比分析の効率化のため、新しい手法を確立した。厚さ200-500ミクロンの木口薄片を作成し、薄片全体をホロセルロースにしてから、年輪の切り分けを行い、炭素・酸素同位体比分析を行うものである。従来は一年輪毎にセルロース抽出処理を行っていたのでホロセルロース抽出に手間がかかっていたが、新手法により薬品処理の部分で同位体分析の手間が軽減された。 本手法では、狭い年輪の場合は微量分析が必要とされるが、ドイツとの共同研究で最低20マイクログラムの試料があれば、酸素同位体比分析が可能な新手法を開発した。これにより、年輪の同位体分析を自動化できる可能性もでてきた。
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