木材の産地判別技術の実用化のためには、木材1点当たりの産地判別コストを大幅に下げる必要がある。木材の年輪の酸素同位体分析では、分析の前処理として、木材からα-セルロースを抽出する必要があり、この工程が同位体分析の分析時間の大部分を占めていた。従来は、実体顕微鏡下で木口薄片から年輪を1年毎に切り分けた後、数百個のサンプルのα-セルロースの抽出を行っており、試料数が多いため分析に長時間を要していた。昨年度より開発してきた方法では木口薄片の形状を崩すことなしにα-セルロースの抽出を行った後で、板状のα-セルロースから年輪を1年毎に切り分けるので、試料の個数が数十~数百分の1になり、分析時間を大幅に短縮することに成功した。この手法により調整したα-セルロースの化学的純度を調べたところ、ヘミセルロース・リグニンともに同位体比に有意な影響はない程度の純度(90%以上)であることが分かった。具体的には、残存ヘミセルロース量をアセチル・アルジトール法により糖を気化し、ガスクロマトグラフィーでの糖分析を行った結果、グルコースが93%以上、マンノース・ガラクトース・キシロースが7%程度存在していた。また、Krasonリグニン量は検出限界(5%)以下、FT-IRスペクトルでもリグニン芳香核由来(1500cm-1)のピークは見られなかった。従来のように試料を木粉(100メッシュ程度)にしてα-セルロースを抽出後、測定した酸素・炭素同位体比と新手法の間で同位体比の値に有意な差は見られず、本手法が酸素・炭素同位体比分析の効率化に大幅に役立つことが確認できた。日本産樹木の酸素同位体比を測定するため、東北産マツ、北海道産ミズナラを採取した。
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