研究概要 |
サケ科魚類における雄の血中ホルモン量と精液量を増加させる性フェロモン(プライマーフェロモン)の存在は長年示唆されてきたが、コイ科の研究と同様にホルモナルフェロモン概念を踏襲しており、まだ誰もその物質を同定していない。サクラマスのプライマーフェロモンを同定すれば、既に同定済みの行動を誘起するリリーサーフェロモン(トリプトファン代謝物)と対を為すことにより、魚類における新たな性フェロモン機構とその多様性を示すことができる。そこで本研究では、サクラマスのプライマーフェロモンが排卵メス尿中に存在することを確認するため、様々な尿や排卵メス胆汁および体腔液に曝露された排精オスが示すプライマー効果をTestosterone(T)、11-ketotestosterone(11-KT)、17α,20β-dihydroxy-4-pregnen-3-one(17,20β-P)の血中濃度を測定することにより調べた。 T濃度がDW曝露群より排卵メス尿、L-キヌレニン曝露群において有意に上昇した。11-KTでは排卵メス尿曝露群がDW曝露群に対して有意に上昇し、またL-キヌレニン曝露群にも上昇の傾向が見られた。17,20β-Pの濃度は排卵メス尿、L-キヌレニン、未排卵メス尿において有意に上昇した。これらの結果から、サクラマスの排卵メス尿にはプライマーフェロモンが含まれており、L-キヌレニンがプライマーフェロモン物質である可能性が高いことがわかった。精液量には変化が認められなかった。 今後、本種におけるプライマー効果の意義について明らかにし、L-キヌレニンのプライマー効果についても精査する。
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