研究概要 |
本年は,排卵刺激後に発現が上昇し,かつマイクロRNAにより分解されることにより,排卵刺激4時間に発現量がピークとなるNeuregulin 1 (NRG1)に着目し,研究を行った.その結果,排卵刺激であるLHによりamphiregulin (AREG)が発現し,それによりEGFR-ERK1/2系が活性化し,C/EBPを介してNRG1が発現することが示された.NRG1は,顆粒膜細胞で発現し,その受容体であるErbB2/3は,顆粒膜細胞と卵丘細胞に発現し,これらにオートクライン,パラクラインで作用する結果,ERK1/2系の活性を増強させた.体外培養実験により,AREGとNRG1は,協調的に作用し,顆粒膜細胞の黄体化に伴うプロジェステロン合成を亢進し,卵丘細胞においてはヒアルロン酸合成の促進により卵丘細胞層の膨化を促し,卵の減数分裂進行も制御する新規因子であることが示された.さらにおもしろいことに,卵丘細胞・卵子複合体の培養系において,NRG1添加は,体外受精後の受精率,胚盤胞期胚への発生率を有意に向上させた.そこで,この作用がマウス固有のものか,あるいは他の動物種においても共通のものかを確かめる目的でブタ卵丘細胞・卵子複合体を用いた実験を行った.その結果,ブタにおいてもNRG1は,体外受精による発生能を向上させたことから,未成熟卵の体外培養系への応用が期待される.現在,loxP-Cre技術を用いて,卵巣の顆粒膜細胞特異的にNrg1を欠損させたマウスの作成を試みており,次年度に詳細な検討を行い,NRG1の卵巣における役割の全容を解明する予定である.
|