研究概要 |
これまで,排卵期に一過的にNeuregulin 1(NRG1)というEGF like factorが顆粒膜細胞で発現すること,それがアンチセンスRNAに発現制御されていることも見いだした.本年度においては,NRG1遺伝子欠損マウスの解析とNRG1により発現上昇する遺伝子を同定し,その生理的な作用を同定することを目的として研究を実施した. 顆粒膜細胞特異的にNrg1を欠損させた(Nrg1^<flox/flox>;Cyp19a1Cre)マウスを作出し,その表現系を解析した結果,産子数の有意な低下が認められた.詳細に検討した結果,卵の減数分裂進行速度が野生型マウスと比較して早期化していることが明らかとなった.おそらく,排卵時に卵が既に加齢化しているために受精能および発生能が減退している可能性が示唆された.また,この結果は,卵丘細胞卵複合体の培養試験において,NRG1の添加が卵の減数分裂再開と第2減数分裂中期への進行を遅延させたこと,それにより卵の発生能が向上することと矛盾しない結果であった,次にNRG1による卵減数分裂遅延効果の解明を試みるために,顆粒膜細胞の初代培養系を用いたマイクロアレイ解析を行った.その結果,NRG1の標的遺伝子として38の遺伝子が見つかった.それらのin vivoにおける発現部位と時期を検討した結果,排卵期に卵丘細胞と顆粒膜細胞で発現上昇するSphk1に着目した.Sphk1は,sphingosine 1 kinaseをコードする遺伝子であり,このkinaseが作るSIPが,卵の減数分裂を遅延させている可能性を示した.これらの結果から,ブタ卵の体外成熟培養系に,時期特異的にNRG1を添加する培養系を考案し,体外受精後の発生能を有意に向上させることにも成功した.
|