研究課題
本研究では研究代表者が最も得意とする核移植技術を中心に、絶滅動物を復活させるために解決しなければならない実験を行い、マウスを用いた基礎研究を完成させることを目的としている。本年度では、”核移植に最適なドナー細胞の特定”さらには核移植を用いて絶滅動物を復活させる場合、その技術は本当に利用できるのかを検討した。絶滅してしまった個体をクローン化する場合、初めの個体と違う異常が残っては復活とは言えない。また個体数を増やすためにはクローンからクローンを作ることも必要となるであろう。本実験では核移植に使用する体細胞は一番採取しやすく扱いやすい卵丘細胞を使用し世代を経て何度も核移植を行い、クローン個体に異常が残るかを検討した。本実験では2005年から継続して行ってきた1匹の129B6F1メスマウスからのクローンよりクローンをつくる実験を継続させ、最終的に26世代目までの再クローンマウスつくりに成功した。また、核移植を繰り返したマウスに異常が現れないかを検討した。通常クローンマウスでは初期化異常として胎盤肥大が見られるが、個体としての妊孕性や寿命、行動などには異常は見られない。今回の実験で、核移植を繰り返した個体でも胎盤肥大は見られたが、その異常が蓄積し大きくなることはなかった。さらに。寿命(テロメア)や妊孕性、行動などには影響がなく正常なマウスと変わらなかった。クローンの出生率も大きく変動することはなかった。今回の実験ではこれまで難しいとされてきた再クローニンは永続的に行える可能性を示した。また、核移植をくりかえしても異常が蓄積せず、通常のクローンと同等のクローンが得られることを明らかとした。この技術は元のドナーが死んでもクローンから永遠にクローンを作ることができ、将来絶滅危惧種の維持に役立つことが期待できる。本実験は2013年3月7日号のCell Stem Cell誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
平成24年度の実験計画に掲げた3つの実験。1、核移植性的なドナー細胞を特定。2、凍結と核の初期化の関係、3、劣悪条件保存状況下での生殖細胞体細胞をもちいた産子作製 のうち1の実験について最適なドナー細胞として卵丘細胞を特定した。最適な細胞の条件としては核移植成功率がいいものという条件もあるが。扱いやすいのも必要となる。絶滅動物から体細胞をとるとき、初めの一世代目は皮膚や脳などの体細胞を利用し、次の世代の生きた個体からクローンを作る場合、扱いやすい体細胞を使用するのが現実的であろう。また、今年度は核移植をくりかえスことによる異常の検討実験で大きな成果をあげることができた(S.Wakayama et.al.Cell Stem Cell 2013 293-297 カバーに採用)。絶滅してしまった個体をクローン化する場合、初めの個体と違う異常が残っては復活とは言えない。また個体数を増やすためにはクローンからクローンをつくることも必要となるであろう。そこで何世代もクローンを繰り返し、その個体の異常が蓄積するかを検討したところ、何世代たっても異常は蓄積せず、クローンは半永久的に繰り返すことが可能あることを明らかにした。以上のように本研究課題での当初研究目的の達成度は、おおむね順調に進んでいるものと思われる。
研究代表者は本年クローン技術はくりかえしても異常の蓄積は現れず、初回と同じものを確実に再現できる技術だということを証明した(S.Wakayama et.al.Cell Stem Cell 2013 293-297)。今後、絶滅動物の体細胞が保存されている状態を想定して実験を行っていきたい。まずはじめに凍結と核の初期化の関係を明らかにするために、核移植凍結と核の初期化の関係をあきらかにする。生きている個体から採取した脳細胞からはクローン個体が生まれないのに、凍結融解した脳細胞を利用するとクローン個体が生まれてくる。凍結融解するとドナー細胞は崩壊し核が露出していることから、卵子内の初期化因子がすぐに核全体にアクセスできる可能性が考えられる。そこで生きた細胞にさまざまな薬品処理を行い初期化促進効果を確認する。次に②凍結乾燥させた組織からのクローン個体作出を目指す。体の組織(おもに脳など)を凍結乾燥させ、そこから核を回収しクローン個体の作出を試みる。これまでの凍結乾燥実験の成果では、直接凍結乾燥したサンプルから細胞を採取しクローン個体を作成することは難しく、一旦核移植ES細胞にしてから個体の作製を行ってきた。さらに核移植成績も非常に低かった。そこで初めに凍結乾燥法の改善を行う。次に実際にできた至適サンプルをもちい核移植を行う。凍結乾燥サンプルは基本的に細胞膜が破壊され、水和後も細胞表面の変化が大きく粘着性を持つ。そのために技術的に核位移植を行うことが難しい。それら技術的な困難を克服すべく本実験独自の核移植方法の開発も行う。以上の実験を行うことで、将来、絶滅動物の復活へ向けての礎となることを希望したい。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Cell Stem Cell
巻: Volume 12, Issue 3 ページ: 293-297
10.1016/j.stem.2013.01.005.
Biorogy of Reproduction
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