本研究では、(1)ナノキャリアに対するEPR効果について詳細な再検討を行うとともに、(2)low dose metronomic chemotherapy (LDM)などの腫瘍内血管系に影響する薬剤投与時のEPR効果の変化について検討を行い、抗がん剤デリバリーの限界を打破する戦略を構築することを最終目的としている。 当該研究期間において、LDMによって腫瘍内微小環境がどのように変化し、結果としてナノキャリアに対するEPR効果が改善されるのか解明を試みた。その結果、まずLDMによって腫瘍血管内皮細胞および腫瘍血管近傍のがん細胞が障害を受ける事が分かった。このような障害の結果、血管透過性が亢進されると同時に腫瘍細胞が排除されることによって腫瘍内圧が軽減され、血流の改善がみられる事が分かった。このように腫瘍内微小環境が変化している中でナノキャリアを投与すると、血流の改善によって腫瘍内へ流入するナノキャリアの量が増加すると同時に、腫瘍細胞の死に伴った血管外スペース(腫瘍細胞間隙)の拡大により、ナノキャリアが貯留可能な領域が拡がったため、より多量のナノキャリアが比較的均一に腫瘍内に分布するようになるという機構を明らかにする事ができた。 さらに、EPR効果によるナノキャリアの腫瘍移行に関して興味深い結果を得た。EPR効果によるナノキャリアの移行は、血管透過性の亢進(input)とリンパ系(排泄系)による排除が乏しい(output)事によるinputとoutputの差に基づくとされている。この理論によれば、ナノキャリアの短期間繰り返し投与は先に投与したナノキャリアが腫瘍内に留まっているため、デリバリー量の改善による効果向上ではなく、むしろ正常組織への薬剤の移行による副作用の発現に繋がるものと考えられてきた。しかし、3日間の投与間隔で3回ナノキャリアを繰り返し投与した場合、ナノキャリアは投与毎に腫瘍内の異なる領域に分布している事が確認され、以前に投与したナノキャリアは次に投与されたナノキャリアの腫瘍移行性を妨げない事が明らかとなった。この結果は、ナノキャリアを用いた新たな治療戦略を考える上で有用な知見である。
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