パルミチン酸転移酵素のAkr1によるメチル水銀毒性軽減作用には、少なくとも一部はMeh1(機能未知)のパルミトイル化が関与していることを明らかにしている。Meh1欠損酵母が示すメチル水銀高感受性は同酵母に野生型Meh1を導入することによってほとんど認められなくなったが、パルミチン酸化される部位を置換した変異Meh1の導入はMeh1欠損酵母のメチル水銀感受性に影響を与えなかった。このことから、Meh1によるメチル水銀毒性軽減作用にはMeh1のパルミチン酸化が必要であると考えられる。Meh1は液胞膜上でミクロオートファジーの調節に関わるEGO複合体の構成蛋白質の一員である。EGO複合体を構成するGtr2またはEgo3をそれぞれ欠損させた酵母はMeh1単独欠損酵母と同程度のメチル水銀高感受性を示し、Meh1単独欠損酵母にGtr2またはEgo3をさらに欠損させても相加的なメチル水銀感受性度の上昇は認められなかった。これらのことから、Meh1はEGO複合体の一員としてメチル水銀毒性軽減に関与していると考えられる。Meh1のC末端にGFPを融合したMeh1-GFPは液胞膜上に局在するが、この局在はAkr1を欠損させることによって認められなくなりそのほとんどが細胞質に分布した。また、変異Meh1-GFPも液胞膜上への局在ができず細胞質に分布したことから、Meh1のパルミチン酸修飾はMeh1の液胞膜上へのリクルートに関与していると考えられる。以上のことから、Akr1によってパルミチン酸化されたMeh1は液胞膜上にリクルートされ、EGO複合体の一員としてメチル水銀毒性軽減に関与している可能性が考えられる。今後、メチル水銀毒性軽減機構に関わるEGO複合体の役割や、メチル水銀がEGO複合体の形成に与える影響などを検討することによってメチル水銀毒性発現機構の一部が明らかになるものと期待される。
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