研究概要 |
本研究の目的は、アクチン結合分子GirdinとDISC1の機能解析を通して生後、すなわち新生仔(児)期と成体期における神経新生の分子メカニズムと精神機能の分子病態を解明することである。さらにGirdinの発現制御機構やそのファミリー分子の細胞生物学的解析を通して、生後の神経新生を制御するより普遍的な分子ネットワークおよび細胞内シグナル伝達機構を明らかにする。本年度は下記の事項について検討した。 (1) Girdinノックアウトマウスは生後4週程で死亡する。時期・組織選択的にGirdin遺伝子を欠失させることが可能なコンディショナル遺伝子改変マウスを作成するためにGirdin遺伝子の開始コドンを含むexon1領域の前後にloxPサイトを、intron2にFlp発現によって除去できるneomycin耐性遺伝子を導入するターゲティングベクターを作成し、ES細胞に導入、続いてG418による薬剤選択を行い複数のES細胞クローンを得た。サザン分析により組み換えES細胞を得た後、胚盤胞への注入によりキメラマウス、さらにFlマウスまで作出した。 (2) GirdinのN末端を強制発現するとGirdinとDISC1の結合が阻害されることを事前に生化学的手法で確認している。今年度はラット新生仔(生後6日目)の海馬歯状回にGirdin shRNA(shorthairpin RNA)およびGidinのN末端ドメインを組み込んだレトロウイルスを注入し、その2週間後、幹細胞から分化した神経前駆細胞の移動と位置を観察した。その結果、Girdinをノックダウンした場合と同様に、GirdinのN末端を発現した神経細胞でも、新生神経細胞の位置異常が観察された。このことはGirdinとDISC1の結合が新生神経細胞の分化、特に細胞移動や位置決定に関わることを示しており、米国科学誌に報告した(Enomoto, A. et al, Neuron 63:774-87,2009)。
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