虚血再灌流時に形成される収縮帯壊死は心筋細胞内へのカルシウムオーバーロードが原因であることから、筋小胞体の種々カルシウム調節タンパク質の関与を検討した結果、以下の知見を得た。 1.ラットの冠状動脈左前下行枝結紮による虚血30分において、筋小胞体へのカルシウム取り込みに関与するカルシウムポンプの構成タンパク質であるSERCA2aの量は変化がなかったが、SERCA2aのカルシウム取り込み能を調節するフォスフォランバンが著しく脱リン酸化していた。 2.フォスフォランバンは細胞内のカルシウム濃度が低下するとSERCA2aに結合して筋小胞体へのカルシウムの取り込みを阻害し、カルシウム濃度が上昇すると解離して阻害作用を無効にすることで、心筋細胞内のカルシウム濃度を調節している。しかし、フォスフォランバンが脱リン酸化されると、細胞内のカルシウム濃度とは無関係にSERCA2aに結合し、カルシウム取り込みを阻害する。そこで、フォスフォランバンのモノクローナル抗体をin vivoで心筋細胞内に導入し、SERCA2aの結合を阻害したところ、虚血再灌流による収縮帯壊死の形成が有意に抑制された。 3.カルシウム依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンの阻害剤であるシクロスポリンAは以心筋梗塞抑制効果があることが以前から知られている。また、カルシニューリンはフォスフォランバンを脱リン酸化することから、シクロスポリンAを投与したラットの虚血30分におけるフォスフォランバンのリン酸化状態を解析したところ、有意に脱リン酸化が抑制されていた。 これまでフォスフォランバンの脱リン酸化が心不全病態に関与していることは知られていたが、本研究により急性心筋梗塞進展にも深く関与していることが新たに明らかにされた。
|