平成21年度に、筋小胞体へのカルシウム取り込みに関与するカルシウムポンプの構成タンパク質であるSERCA2aの調節タンパク質であるフォスフォランバン(PLB)について、以下のような知見を得た。 1.ラットの左冠状動脈結紮による30分の虚血は、PLBを脱リン酸化し、SERCA2aのカルシウム取り込み能を低下させることにより、再灌流5分後の収縮帯壊死形成を促進する。 2.虚血によるPLBの脱リン酸化にはカルシウム依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンが関与している。 そこで本年度は、虚血により活性化したカルシニューリンがPLBを脱リン酸化する分子機構を明らかにすることを主たる目的として実験を行った。その結果、以下のような新規の経路を見出した。 1.虚血30分により活性化したカルシニューリンは、プロテインキナーゼC(PKC)-αを活性化する。 2.活性化したPKC-αはプロテインフォスファターゼ1(PP-1)の内因性インヒビターであるインヒビター1(I-1)のSer^<67>をリン酸化することにより、I-1を不活性化する。 3.I-1の不活性化によって、PP-1が活性化し、PLBを脱リン酸化する。 また、虚血30分再灌流5分後において、収縮帯壊死およびカルシウム依存性プロテアーゼであり、虚血再還流傷害に深く関わっていると考えられているカルパインの活性化が見られたが、これらはカルシニューリン阻害剤投与およびSERCA2aとの複合体形成を阻害するPLB抗体導入により抑制されたことから、上記の虚血によるPLBの脱リン酸化の経路は虚血再灌流傷害に関与している可能性が示唆された。
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