平成22年度までに、ラットの左冠状動脈結紮による30分間の心筋虚血は、カルシウム依存性脱リン酸化酵素であるカルシニューリンを活性化させ、筋小胞体へのカルシウム取り込みに関与するカルシウムポンプの構成タンパク質であるSERCA2aの調節タンパク質であるフォスフォランバン(PLB)を脱リン酸化する結果、小胞体カルシウム取り込み不全を引き起こし、再灌流時に、細胞質カルシウム過負荷から収縮帯壊死を生起させることを見出した。抗PLB抗体を心筋に導入して、PLB-SERCA2aの複合体形成を抑制すると、小胞体カルシウム取り込み能は改善され、収縮帯壊死を軽減することを示した。 本年度は、この抗PLB抗体導入実験を用いて収縮帯壊死と心筋梗塞進展の因果関係を明らかにし、本研究の目標である収縮帯壊死の診断価値について検討した。収縮帯壊死から心筋梗塞進展への機序について、以下の新規知見を得た。 1.抗PLB抗体の心筋への導入は再灌流5分後の収縮帯壊死形成を抑制するが、その後の心筋梗塞進展は抑制せず、むしろ亢進させる。 2.抗PLB抗体によって改善した小胞体カルシウム取り込みは、ミトコンドリアユニポーターを介して、ミトコンドリアにカルシウムを流入させる。 3.これによって生じるミトコンドリアカルシウム過負荷は、mitochondria perme ability transition pore(nPTP)を開口させ、心筋梗塞進展を亢進させる。 4.心筋梗塞進展には、細胞質内よりもむしろ、ミトコンドリア内カルシウム過負荷が重要な役割を担っている。 これまで、心筋梗塞は収縮帯壊死の延長線上にあると考えられており、心筋収縮帯は心臓突然死の一所見とみなされてきた。しかし、上述のように、収縮帯形成を抑制しても、心筋梗塞が進展する条件が存在することが明らかとなった.
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