研究実施計画に記載されている研究項目番号に従い以下報告する。 〈III.心不全病態変化とエピジェネティック修飾変化の関係-クロマチンリモデリング因子の変化解析〉 ヘテロクロマチン領域に存在し、histone H3K9 me3との結合が報告されている蛋白HP1にはα、β、γの3つのアイソフォームが存在し、多様な機能を担い遺伝子発現制御メカニズムのひとつとして翻訳後修飾が示唆されている。逆相HPLC、アミノ酸変異体解析、質量分析により、新規翻訳後修飾として、システイン(C)残基を介した分子間ジスルフィド結合を見出した。HP1αのC133、HP1γのC177が特異的修飾残基として同定され、HP1βはジスルフィド結合を形成しなかった。in vitro、in vivoともに、HP1γは容易に酸化されジスルフィドダイマーを形成するのに対し、HP1αは酸化ダイマーは形成されず、その構造上の酸化感受性の差異が示唆された。 〈IV.クロマチンリモデリング因子およびHP1 family分子の機能解析〉 血管内皮細胞からのスクリーニングにより、酸化状態にて分子間ダイマーを形成したHP1γは転写共抑制因子TIF1βと強固に結合することが分かった。生化学的解析、転写レポーター解析により、酸化状態下で、HP1γはTIF1βをクロマチン上に捕捉し、その転写抑制機能を解除するにとが分かった。アイソフォーム特異的な酸化応答性は、HP1の多様な機能に寄与し、酸化環境下における遺伝子転写制御に関わることが示唆された。 〈研究全体のまとめ〉 循環器疾患における酸化状態における遺伝子発現制御は重要である。本結果を踏まえ病態変化におけるHP1の分子機能解析を進め、新しいエピゲノム制御の機序を明らかにする予定である。昨年来進めている動物モデル心不全、ヒト心不全におけるエピゲノム修飾因子の解析をおこない病態進展との関係を明らかにする予定である。
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