研究概要 |
1)肥満の脂肪組織におけるATF3の意義に関する研究 我々は既に、脂肪細胞とマクロファージの相互作用が脂肪組織炎症の増強を介して遊離脂肪酸の過剰産生を誘導することを提唱している。この際、脂肪細胞に由来する飽和脂肪酸がTLR4の内在性リガンドとしてマクロファージを活性化することを証明し、メタボリックシンドロームの病態形成に関与することを見出した。本研究では、DNAマイクロアレイ法により、マクロファージにおける飽和脂肪酸の標的分子としてATF3を同定し、ATF3が肥満の脂肪組織に浸潤するマクロファージに高発現することを証明した。培養マクロファージを用いた検討により、ATF3は飽和脂肪酸/TLR4/NF-κB経路の負の制御因子として作用することが明らかになった。実際、マクロファージ特異的にATF3を過剰発現するトランスジェニックマウスでは、肥満に伴うマクロファージの活性化が減弱しており、ATF3が慢性炎症を基盤とするメタボリックシンドロームの新しい創薬ターゲットとなる可能性が示唆された(Circ.Res.105 : 25-32, 2009)。 2)ヘパリン結合上皮成長因子様増殖因子(HB-EGF)の産生調節機構に関する研究 HB-EGFは膜蛋白質として生合成され、切断酵素により切断されて細胞より放出される。肥満患者の血清HB-EGFは高値を示し、肥満の病態形成に関与すると想定されるが、その産生機構は明らかでなかった。本研究では、アルカリフォスファターゼ融合HB-EGFを安定発現する3T3-L1脂肪細胞を作出し、HB-EGF放出の分子機構を検討した。インスリンあるいはリコンビナントHB-EGFは分化脂肪細胞においてHB-EGF放出を誘導し、少なくとも一部はADAM17によることが示唆された。切断酵素によるHB-EGF放出の分子機構の解明は、内分泌細胞としての脂肪細胞の生物学に新しい洞察をもたらすと考えられる(Obesity 2010 Jan 28.[Epub ahead of print])。
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