我々はE2Aの転写抑制因子であるId3をマウスの造血幹細胞へレトロウイルスを用いて導入し、B前駆細胞の培養条件下で培養することによって造血幹・前駆細胞を生体外で増幅させることに成功した。この細胞をId因子を用いた造血前駆細胞という意味でId-induced Hematopoietic Progenitor(IdHP)細胞と名付けた。本研究ではIdHP細胞の自己複製能に着目し、この分子機構の解明に取り組むことを目的とする。 研究実地計画に従い、本年度はリンパ球、ミエロイド系細胞への分化能に限定されたIdHP細胞へ特定の遺伝子を導入することにより、赤血球/巨核球への分化能を誘導できるかどうか調べた。まず最初に、造血幹細胞の自己複製を誘導する因子であるBMI-1やHOXB4をレトロウイルスを用いてIdHP細胞へ導入した。これらの遺伝子に感染した細胞をソーティングしIdHP細胞と同じ条件で培養したところ、遺伝子導入した細胞はIdHP細胞と同様、顕著な増殖能を示した。次に培養系および移植による分化誘導系を用いてこれらの細胞の分化能を調べたところ、in vivoにおいてもin vitroにおいても赤血球や巨核球への分化能は遺伝子導入前とほとんど変わらなかった。ところが、BMI-1やHOXB4遺伝子を導入したIdHP細胞は巨核球系細胞のマーカーである、CD41を発現することが明らかとなった。このことはIdHP細胞の赤血球/巨核球系細胞への分化プログラムが活性化されていることを示唆している。また、IdHP細胞が造血幹細胞に近い、より未分化な前駆細胞へ誘導された可能性を示している。今後、遺伝子導入した細胞の培養条件に検討を加えることにより、IdHP細胞に赤血球/巨核球への分化能を付与できる可能性を示した。
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