補助生殖医療の技術の進歩により、不妊症に対する治療には革命的変化がもたらされた。しかし、補助生殖医療が抱える種々の問題点については、十分に議論されていないのが現状である。現在の男子不妊症における最重要課題は、遺伝子レベルでの詳細な原因の解明と新しい治療の開発にあると思われる。本応募研究では、①男子不妊症の病態解明および②男子不妊症に対する遺伝子治療という二つの到達目標を掲げ研究を行った。本年は最終年度であり、前者の男子不妊症の病態解明の一つとして、プロモーターアレイを用いたゲノムレベルでの転写因子DAX-1とプロモーターの結合特異的解析に研究テーマを絞り、研究を行った。一般的に、発現している遺伝子の転写調節領域には転写開始複合体が結合していることが知られている。この性質を利用して、この複合体のゲノムDNAの結合部位を調べてみると、既知の遺伝子の転写調節領域だけでなく、遺伝子として同定されていない領域にも結合していることが明らかになる。このプロモーターアレイの技術を応用してセルトリ細胞およびライディッヒ細胞におけるDAX-1の標的遺伝子の同定を試みた。しかしながら、両細胞とも本遺伝子の標的遺伝子の同定はうまくいかなかった。おそらく免疫沈降からハイブリダイゼーションまでのプロセスに何らかの問題があるか、プロモーターアレイのシステムに問題があると考え、現在試行錯誤を繰り返しているところである。また、男子不妊症モデル動物を用いて、精子幹細胞が不活性化されていることを見出し、男子不妊症における造精機能障害の一因である可能性が考えられた。
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