本研究は発生期において血管密度、つまり血管の「量」そのものは組織への酸素運搬能という血管本来の機能と相関しないという点に着目し、新生血管の「質」を規定するメカニズムに関して詳細な分子生物学的解析を行うとともに、創傷治癒過程におけるこのメカニズムの重要性を明らかにすることを目的として遂行された。まず、網膜血管発生においてこの血管の質に重要な働きを果たす白血病抑制因子(LIF)(Kubota et al. J. Clin. Invest.2008)について、そのノックアウトマウスの創傷治癒過程を解析した。その結果、創傷治癒血管新生および創傷治癒速度には大きな異常が認められないことが判明し、他のIL-6スーパーファミリーのgp130シグナル活性化によるcompensationがメカニズムとして疑われた。一方申請者は、M-CSF変異マウス(CSF-1^<op/op>)を用いて、マクロファージによる血管リモデリングが発生期・腫瘍血管新生の「質」を規定するメカニズムの一端を担うことを解明し、報告した(Kubota et al. J. Exp. Med. 2009)。また、CSF-1^<op/op>マウスは全身の多くの組織でマクロファージを含む単球系細胞を欠くことが知られているが、創傷部位においてもマクロファージがほぼ欠如することを既に見出しており、また、マクロファージ由来の細胞外マトリックス関連遺伝子の発現低下も確認し、現在CSF-1^<op/op>マウスの創傷治癒血管新生を評価中である。
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