外傷、手術、感染などにより皮膚・軟部組織が欠損すると、それを修復すべく内因性の創傷治癒プログラムが発動する。創傷修復過程は大きく分けて、肉芽形成、上皮化、創収縮の3つのステップに区分されるが、そのすべてにおいて、血管網から供給される酸素・栄養はもっとも重要な要素の一つである。近年、個体発生・腫瘍において、血管の密度、つまり血管の「量」そのものは組織への酸素運搬能という血管本来の機能、即ち血管の「質」と相関しないことがわかりつつある。本研究は皮膚創傷組織において、この血管の「質」を規定する分子メカニズムを明らかにするために行われた。従来の血管研究で用いられてきた組織切片における血管の観察では、血管の横断面しか観察できないため、得られる情報は限定されてきた。血管の断面の可視化により、血管の多寡・口径の大小は定量化することができても、血管ネットワークを全体像として把握することは不可能であった。その他、蛍光色素の静脈内、または心内投与による血管造影は、血流を可視化しているものであり、厳密には血管そのものを可視化しているわけではない。本研究において申請者は、成獣マウス組織で行ってきたホールマウント血管染色を応用し、皮膚創傷組織においてその血管網の3次元構造をありのままに可視化することに成功した。これにより血管増生よりむしろ血管の拡張が、その「質」を規定する主要な因子であることを見出した。また、種々の遺伝子改変マウスの解析により、貪食細胞の一つとして知られるマクロファージが血管の拡張、ひいては血流の増大に密接に関与することを見出した。
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