研究概要 |
癌骨転移患者に対して,ビスフォスフォネート(BP)製剤の使用が世界的に用いられているが,近年BP投与患者にしばしば顎骨壊死が報告されている(Marx R.E. J Oral Maxillofac Surg., 2005)。そこで申請者等は骨に半永久的に取り込まれるBP製剤に対し,"破骨細胞を標的とした薬剤"で骨代謝機能を可逆的に保持させたままで,癌骨破壊をコントロールできるのではないかと考えた。申請者は心腔内投与癌骨転移モデルを用い,FAK (focal adhesion kinase)397番目のチロシン残基を選択的に阻害する新規分子標的治療薬TAE226投与から21日目のX線透過像として現れてくる骨破壊像を比較した。X線学的な骨破壊をおこしている骨透過像面積はコントロール群と比較してTAE226投与群では有意に減少していた。また組織学的に比較するとコントロール群では骨の髄腔内がほぼ腫瘍細胞で置換されており,既存の骨梁はほぼ破壊されていたが,TAE226投与群では髄腔内での腫瘍増殖面積は有意に減少しており既存の骨梁構造の維持が認められた。破骨細胞特異的マーカーであるTRAP(石酸抵抗性酸性ホスファターゼ)染色を行うと,コントロール群では腫瘍に隣接する骨面上に破骨細胞様の多核の巨細胞が著明に観察されたが,TAE226投与群では腫瘍と隣接する骨面での単位距離あたりの破骨細胞数が有意に減少することがわかった。これらの結果よりFAKシグナルは癌細胞における腫瘍増大のみならず,破骨細胞形成にも関与することが示唆され,癌骨破壊巣におけるFAKの生物学的な重要性の一端が明らかとなった。
|