研究概要 |
近年,口腔細菌と全身疾患との関連が取りざたされており,様々な全身疾患と口腔細菌との関連が明らかになりつつある.これまでに,心臓弁膜症や大動脈瘤などの手術の際に得られた検体中に存在する口腔細菌種の分析を行ってきた.その結果,これらの疾患と口腔細菌種との関連が示唆された.本研究では,口腔細菌が脳血管疾患に及ぼす影響に関して検討することにした.まず,マウス脳出血モデルにおいて,う蝕原性細菌であるStreptococcus mutansの感染が与える影響を検討することにした.すると,脳出血を悪化させる複数の菌株が存在することが明らかになった.そこで,これらの株に共通する性状を分析すると,菌体表層に存在する分子量約120kDaのコラーゲン結合タンパク(Cnmタンパク)が存在しており,病原性の関与が示唆された.その後,Cnm欠失変異株を作製するとともに,Cnmタンパク保有株を多数分離した.これらの株を用いて血小板凝集能を検討した結果,標準株と比較してCnmタンパク保有株ではコラーゲン誘発による血小板凝集能の低下が認められた.一方で,Cnm欠失変異株では血小板凝集能低下の回復が認められた。さらに,電子顕微鏡下にてI型コラーゲン,供試菌,および血小板を反応させてその状態を観察したところ,標準株との反応では血小板が正常に活性化されたのに対して,Cnmタンパク保有株との反応ではその活性化は認められなかった。これらのことから,コラーゲン結合能を有するS. mutans菌株は,血管内皮傷害により露出したコラーゲン線維と結合することにより血小板凝集を抑制し,その結果出血を悪化させる可能性が示された.今後,このメカニズムを詳細に検討するとともに,その過程を阻害する方法を考えることで予防法の確立へとつなげたいと考えている.
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