研究概要 |
昨年度までの研究によって,コラーゲン結合能を有するStreptococcus mutans菌株が脳出血の悪化に影響を及ぼしている可能性が明らかになった.これまでは,コラーゲン結合タンパク(Cnmタンパク)を菌体表層に発現している生菌体を用いて検討してきた.また,Cnmタンパクをコードするcnm遺伝子を失活させた株を作製し,Cnmタンパクの役割に関して分析した.今年度は,cnm遺伝子の配列に基づいて作製したリコンビナントCnmタンパクを用いて,マウス脳出血モデルにおける分析を行った.その結果,リコンビナントタンパクを血液中に投与するだけでも,出血の悪化が惹起されることが明らかになった.さらに,実際に脳出血に罹患した対象者から唾液を提供いただき,S.mutans菌株の分離を行うとともに,Cnmタンパクの保有をはじめとした性状を検討した.また,全身的既往歴を有さず投薬も受けていない同年代の健常人にも協力いただいたき,脳出血を呈した対象の保有する菌株との差異を解析した.その結果,S.mutansの分離率は脳出血患者群および健常群で,それぞれ全体の約6割程度であったが,cnm遺伝子の陽性率に関しては,脳出血患者群では健常群の約3倍であることが明らかになった.さらに,マウス脳出血モデルを用いて,実際に脳出血患者群から分離した複数の株の病原性を検討した.その結果,脳出血を引き起こした対象者からの分離株は,生理食塩水投与群と比較して約2~3倍の出血面積を呈した.現在,Cnmタンパクを有するS.mutans保有者を簡便にスクリーニングする方法の構築と菌株保有者に対する脳出血発症予防に対するアプローチに関して検討を続けている.
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