研究概要 |
本研究の対象である論理回路はチューリング機械と同様に計算機の数学的モデルであり,P対NP問題を始めとする計算量理論の観点から広く研究が行われている.論理回路における否定素子の働きを明らかにすることを目的として否定素子数が制限された論理回路の研究がこれまで主に一般の回路を対象として行われているが,本研究では一般の回路以外において否定素子数を制限した場合を考え,否定素子の働き,さらには回路計算量の解明を進めることを目的とする.本年度は,まずファンアウトが1に制限された論理回路であるフォーミュラに対して否定素子数を制限した場合を考え,ある問題を計算するのに最低限必要な否定素子の数(反転計算量と呼ばれる)を特定し,否定素子数が制限された場合と制限されない場合のフォーミュラの素子数の関係に関する成果を得た.これらの成果はヨーロッパにおける理論計算機科学に関する主要な国際会議であるICALP'09に採録され発表を行った.フォーミュラは,並列計算時間との密接な関係から回路計算量の研究において重要かっ広く研究されている論理回路の一つであり,論理関数を記述するためによく用いられる論理式そのものでもある.さらに,非決定性計算を可能とした論理回路である非決定性回路に対しても同様に反転計算量を特定し,査読付き学術雑誌Theoretical Computer Scienceに論文が掲載された.また,入力された0と1をそれぞれ反転する回路である反転回路を否定素子数が制限された状態で構成することに関する論文が2件,査読付き学術雑誌に掲載された.
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