研究概要 |
微分方程式などの連続数学の問題を,計算機の有限桁の浮動小数点数を用いて数値的に解きながら,演算結果の数学的な正しさを実用的なレベルで保証する,精度保証付き数値計算と呼ばれる数値計算法に関する研究が近年盛んに行われている.数値計算で生ずる誤差は,数値計算アルゴリズム由来の誤差と計算機の丸めの誤差に大別される.精度保証付き数値計算は,基本的には前者への対策としての不動点定理と後者への対策としての空間演算という2つの技術を組み合わせることで実現される.そして,精度保証した結果の善し悪しを測る尺度は,精度保証付き解の空間幅の大小である(空間幅が小さいほど良い結果である).しかるに,空間演算は「最悪値の保証」というその性質上,演算結果の過大評価による空間幅の増大が起きやすいという大きな欠点を持つ.この問題を克服するために通常取られる方法は,空間拡張する前の式を空間幅の増大が起きづらい形に変形する方法である. これに対し,研究代表者らはこれまで,変数間の相関を表現できる空間演算の有力な変種としてアフィン演算を扱い,非線形方程式における全解探索問題の高速な求解や,初期値問題の精度保証付き解法に活用してきた.反面,アフィン演算には非線形演算の定義の仕方が難しい,丸め誤差の扱いが難しい,通常の空間演算を用いるより計算コストがかかるなどの課題がある.さて,本研究課題の目的は,アフィン演算のように通常の空間より工夫を凝らしたデータ構造を持ちながら,現状苦しめられている計算コストの問題を解決する方法を提案することである。 研究代表者は,研究期間を通じて,同類項のまとめによって打ち消される可能性の低い誤差項同士をまとめることでアフィン形式の項数を減らす方法を何通りか検討した.このようにすることで,まとめられた項はもはや打ち消し(同類項のまとめ)がきかなくなるが,打ち消される可能性が非常に小さいため,この操作が区間評価の性能を落とす可能性はごく小さい.ただし,減次の方法の巧拙によって減次に伴う区間の過大評価の度合いが異なることを確認した.
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