本研究では、高品質な組込みソフトウェアを開発するために、非正常系と呼ばれる例外や障害などの事象に注目して、情報の流れに着目した情報フロー・ダイアグラム(IFD)による静的な要求分析手法、および状態遷移に着目した分析マトリクスによる動的な要求分析手法を統合した非正常系分析手法を提案している。本年度は研究計画の最終年度に当たり、以下の研究を行った。 (1)統合モデルおよび分析プロセスの洗練 複合的な要因による障害を複数の異なる関心度で分析するために、分析マトリクスの分析対象であるシステムを分割せずに全体として扱う状態モデルを採用した。このモデルでは、分析中のある時点で対象としている構成要素の状態に着目したシステムの全体の状態を記述することにより分析者にとって関心のある状態のみを抽出した。これにより、分析範囲を局所化し、設計者の関心事に合わせた分析を可能とした。また、分析マトリクスの概念を整理し、あいまいな概念を排除した。これにより、分析マトリクス自体の表現を簡素化することができ、理解性が向上した。 (2)分析支援方法の検討 実用的な効率で非正常系を分析するためには、分析の効率化と分析範囲の削減が不可欠である。前者に関して、分析マトリクスのセルと複数のIFDとの対応に明示的に表現する機能を検討した。また、後者に関して、プロブレムフレームを用いて関心事の絞り込みを行うことにより、状態爆発を避ける方法を検討した。この方法は、非正常系分析に有効であるが、本課題の範囲を超えるため、今後研究を進めていく予定である。
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