本研究は、インターネットにおいて、複数ホスト間を結ぶIPネットワークのトポロジ特性を高速に抽出する方式について検討するものである。本方式を用いることにより、ネットワークアプリケーション自身による配送経路の迂回路の確保やネットワークトラフィックの分散といった、自律的な最適化処理が促進されることを目指している。本年度は、世界中に点在する複数ホスト間のIPトポロジ情報を実際に収集するシステムを構築・運用し、得られたトポロジ情報から提案方式の実効性について検証した。検証には、WHOIS登録情報やBGP(Border Gateway Protocol)でやり取りされるAS(Autonomous System)間経路情報を組み合わせたものを正解の一つとして用い、それと提案方式の動作実験結果を照らし合わせることで、提案方式がAS等を単位とするネットワーク境界を正しく検出できるかどうかを確認した。このような正解情報はデータ量が膨大であり、かつ更新も頻繁に発生するため、エンドノード上のアプリケーションが各々保持して活用することが難しい。一方でエンドノード・エンドユーザだけで処理が完結し、事前知識を持たずに動作する提案方式が、ネットワーク境界をいかに高速かつ正確に検出できるかが評価の鍵となる。評価の結果、提案方式は、ネットワークアプリケーションの動作において現実的な時間内に、一定の精度でネットワーク境界を検出できることが確認でき、自律動作に重点を置くインターネットアプリケーションのためのネットワーク計測手法として実用化の可能性を示唆できた。今後、実アプリケーションで提案方式が利用されるシナリオにおいて、アプリケーションの自律的な最適化処理の高速化や最適化処理がもたらす効果の向上などについて、実地的な議論・評価が求められていくべきであろう。
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