研究概要 |
本研究では,異なる大きさの手の疑似体験ができる複合現実感の実現を目指し,本年度は1.提示システムの構築,2.身体図式の更新に必要な運動の検証を行った.異なる大きさの手を疑似体験するための提示システムは,ステレオカメラ,計算機,3次元ディスプレイから構成され,システム利用者の手をリアルタイムで計測し,手の姿勢に応じた3次元モデルを異なる大きさの手として提示する.手の計測から提示までの計算を高速に行うことによって,視覚提示の時間遅れを小さくし,異なる大きさの手の疑似体験に必須である時間整合性を実現した.本システムでは,3次元モデルを用いて視覚提示を行っていることから,従来の光学系を用いたシステムと比べて,大きさのみならず指の長さの違いなど形状の異なる手を扱うことができ,また提示する手の視覚的リアリティを変化させることができる.これらのことは,製品設計における事前評価において多くのバリエーションの手を扱うことができるという工学的意義をもち,また次年度に計画されている視覚的リアリティの許容範囲の検証実験を行うための基礎となる.一方,身体図式の更新に必要な運動の検証においては,まず運動の種類を手と物体の関係に基づき4つに分類し,運動の簡単さと身体図式更新に必要な感覚情報の豊富さのトレードオフ問題について検証実験を行った.その結果として,物体を手で持った状態で動かすことが身体図式の更新に重要であるという知見を得た.このことは,提示する手の大きさを変化させたときに,スムーズな適応のためにどのような作業が望ましいかを考える上で重要な点であり,製品設計における事前評価では,作業効率の向上や作業に必要なコストの削減につながるものである.
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