研究概要 |
本研究では,自らとは異なる大きさの手を疑似体験する複合現実感の実現を目指し,本年度は1.手の姿勢の空間整合性についての許容範囲,および2.視覚的リアリティの許容範囲について検討を行った.手の姿勢の空間整合性について取り組むにあたり,同一の姿勢と感じる範囲である「手の姿勢の分解能」に着目した.CGで提示された手と同じと感じる手の姿勢を被験者に作ってもらい,実際の手の姿勢を関節角度で計測したところ,約5~20度の関節角度以内で再現されるという結果を得た.このことは,自らとは異なる大きさの手を疑似体験する複合現実感を提示するシステムにおいて,どのような姿勢の手をCGで表示すれば違和感なく提示できるかという許容範囲に関する新たな知見である。また,手の姿勢の分解能を考慮することで,手術道具などの精確な操作が必要となるデバイスを,誤操作が起こりづらい構造として設計することが期待され,手で扱う道具のユーザビリティ向上につながるものと考えられる.視覚的リアリティについては,レンズを通した実際の手,実写映像,CGというように提示する視覚情報のリアリティを変化させて比較を行ったが,有意な差は認められなかった.このことから,異なる大きさの手を疑似体験するシステムでは,先に明らかにした許容視覚遅延100ms以内であれば,CGでの視覚提示が有効であると考えられる.光学系を使ったシステムでは大きさのみの変化という制約があったが,CGでの提示であれば形状を変更することができ,豊富な手形状への拡張の可能性が示唆された.製品設計における事前評価を考えたときには,検討するユーザのバリエーションが広がることを意味し,工学的な意義は大きいものと考えられる.
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