研究概要 |
本研究の課題は,巧緻運動困難を持つ学習障害児への支援インターフェース構築に向け,障害の認知特性・障害機序を明らかにすることである。特に本研究課題の特徴的な点は健常者及び学習障害者に対する検査結果に基づき,認知特性を生かした工学的支援の基礎となる知見を得ることを目標とする点である。 最終年度となる本年度は,開発した読み書き処理の認知神経心理モデルに基づいた漢字検査課題を他の研究者に利用してもらい,臨床応用を継続した。例えば,視覚性複雑度・音韻性複雑度を統制した本漢字読み書き検査課題の成績には各被験者の認知特性が関連していることの確認,本漢字読み書き検査課題を利用した反復運動学習や語の視覚的イメージを支援した学習等の介入事例でのモデルの検証である。その結果,それら研究事例で本漢字読み書き検査の有効性が示唆された。さらに英文書籍に投稿し,学習障害の診断とその教育的介入の章で採択されたことで,将来的な活用・検証の場を広げることが出来た。 一方,本年度も,巧緻運動困難な学習障害児の認知特性を生かしたインターフェースに向けた知見を得るために,学習障害の類型化やモデルの構築と並行し,視覚情報から想起される自己の感覚や運動についての実験を進めた。健常成人被験者の協力のもと,行動実験だけでなくfMRI(機能的磁気共鳴画像)やEEG(脳波)といった生理的指標を用いた実験も併用し,視覚認知による自己の運動の記憶が行動や脳内処理にどのような影響を与えるかを検討した。その結果,自己の運動軌跡を認識した時よりも他者の運動軌跡を認識した時の方が運動関連部位がより賦活されるということを確認した。これは他者の運動模倣時と同様,他者の運動軌跡といった新しい運動軌跡の観察時に運動想起を行っている可能性を示唆し,工学的支援の基礎となる知見と成り得ると考えられた。
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