研究概要 |
コミュニケーションシグナルの送信・受信に関する形質の共進化が議論可能な最小限の状況設定を考え,その進化における学習の影響について検討した.具体的には,シグナル送受信の方法を採用しそれが成功した際に生じる適応度への貢献度をコミュニケーションレベルとして定義した.各個体は自身が送信者・受信者それぞれの場合において用いるレベルを独自に持ち,コミュニケーションの成否は送信側と受信側のレベルが一致するかどうかで決まるとした.以上の送受信に関するレベルとその可塑性が,レベルが高いほど先天的・後天的に生じにくい制約のもとで共進化するモデルを構築し,実験を行った. その結果,生得的なレベルのみでコミュニケーションを行う場合には,一旦レベルが集団内で共有されると進化が停滞してしまうのに対し,学習能力の進化を導入した条件では,ボールドウィン効果と呼ばれる現象が繰り返し生じてレベルが次第に増加していくことが確認された.積極的な研究発表での多様な研究者との議論,進化ダイナミクスのより詳細な解析の結果,本研究で注目する動的な適応度地形(遺伝子空間上に描かれる適応度の山)においては,学習は適応度地形に新たなピークを作り出すことで,適応度地形の谷をうまく越える働きがあることが明らかになった.これは,学習には,従来指摘されてきたような単に適応度地形をなだらかにする以上の働きがあることを明確に示した点で,新規な知見であるといえる. また,生態学的により妥当な拡張に向けて,送信・受信者が受けるメリットの比を変更した場合の基礎的解析や,個体間相互作用の構造が協調進化に与える影響,複雑なニッチ構築行動の進化,種間相互作用とネットワーク構造の関係等についても予備的検討を行った.同時に,本研究における重要な概念である共進化や適応度地形の応用の可能性等についても検討した.
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