研究概要 |
本研究は,燃料電池の大規模な損傷計測データから,損傷メカニズムの解明や監視のためのデータマイニング技術の応用研究である.本年度は,燃料電池の損傷事象の共起分析から,構成部材間の力学的影響関係の推定を行った.共起分析には,系の潜在的な影響関係をグラフ形式で表面化する方法であるKeyGraphを応用した.ここで,元々のKeyGraphは記号データを対象としているため,前年度の成果で得られたSOMによる実数値の特徴空間の量子化を利用して損傷事象データに適用した.固体酸化物燃料電池の損傷試験60時間から得られた損傷データに適用した結果,電解質と初期欠陥によるき裂の進展に相互作用がみられることや,構造上つながっている電解質と電極材に力学的な影響関係がみられなかったことなど,燃料電池の専門家にとっても新しい知見が得られ,破壊メカニズムに向けて前進したと言える.本研究は,物理モデルの構築が困難な複雑な対象に対して,観測データから部材間の影響関係を推定した初めての試みである.今後,再現性の確認や異なる実験条件下での比較分析により,信頼性の向上や破壊メカニズムの解明が進むと考えられる.来年度は,頻出パターンに寄与するクラスタを適応的に決定しつつ損傷パターン抽出する方法を開発する.これにより,部材間の力学的相関関係の推定の高精度化を図る.
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